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クロロフィル・カロテノイド定量方法(DMF抽出法)

2012/02/29 筑波大学 野田響
2012/03/01 筑波大学 野田響 改訂
2012/03/28 筑波大学 秋津朋子 改訂
2012/11/22 筑波大学 野田響 改訂
2013/12/17 国立環境研究所 野田響 改訂

ここではN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いたクロロフィル抽出法および定量方法についての説明を行います。

はじめに

DMF抽出法はクロロフィルの定量方法としては,アセトン抽出法と並ぶ,一般的な方法である。アセトン抽出法は,サンプルを粉砕しなければならないのに対しDMFはintactなままのサンプルから抽出できることから,初心者でも信頼できる結果を出すことができる。ただし,クチクラ層の発達した厚い葉ではDMFが細胞に浸透しないために抽出が難しい。そのような場合はアセトン抽出法を選んだほうがよい。

測定全体の流れ

単位葉面積あたりのクロロフィル量を求めるため、定量は次のような流れで行う。

  1. サンプルとなる葉からある面積の切片を切り抜く(この切片をleaf discと呼ぶ),またはサンプルとなる葉の面積を測定する
  2. サンプルをDMF溶剤につけてクロロフィルを抽出する
  3. クロロフィルが抽出されたDMF溶剤を分光光度計にかけ,クロロフィルおよびカロテノイドの吸収波長での吸光度を測定
  4. 吸光度から抽出された(葉面積あたりの)クロロフィル・カロテノイド量を算出

以下、各項目について順番に説明する。

0. 準備する器具

  • リーフパンチ(あれば便利)
  • N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
  • 試験管
  • 試験管立て
  • パラフィルム(試験管と同数をあらかじめ適当な大きさに切っておく)
  • アルミホイル
  • 冷蔵庫
  • 分光光度計
  • 石英ガラスのセル(分光光度計用)
  • ポリエチレン製手袋(ゴム製はDMFで溶けるので不可)
  • 白衣と保護ゴーグル

1. leaf discの切り抜き/葉面積の測定

広葉の場合,十分な大きさがある場合は,葉から切り抜いたleaf discを定量に用いる。決まった面積であればどのように切り抜いても構わない。藤原製作所製のリーフパンチを用いれば簡単に直径1cmのleaf discを抜くことができる。

  • リーフパンチは使用の度にきちんと穴とパンチ部がはまるかどうかを確認してから使用する。
  • 1枚の葉(もしくは同じような状態の葉)から3〜4枚切り抜く(これが1セット)。
  • 1セットごとにビニール袋に入れて、種名や特徴(新葉、越年葉、陽葉、陰葉などの区別)を記入しておく。
  • 主脈がleaf disc内に入らない様に注意する(1セット内の状態が同じであれば良い)。

http://pen.agbi.tsukuba.ac.jp/~RStiger/photo/experiment/panch.jpg

一方,カラマツの葉のように小さい葉を扱う際にはleaf discにする必要はない。定量に用いる葉の葉面積を測定する。(葉面積測定方法を参照のこと)

なお,定量に用いるサンプルは-30℃であれは半年ほど,-80℃であれば数年は保存することができる。ただし,冷凍保存したサンプルは一度解凍してしまうと細胞が壊れてクロロフィルの分解が始まるため,速やかに抽出・定量を開始する必要がある。

2. 抽出

実験前の準備

この方法で用いるDMFは体の表面から吸収されやすく,気化したものを吸い込むと肝臓に傷害を与えるおそれがあるため,十分に注意して行うこと。基本的な実験器具・機器の扱い参照のこと。

抽出

  1. 抽出に用いる試験管に,サンプルのIDを油性ペンで記入。油性ペンのインクもDMFに溶けるため,試験管の口から離れた位置に書く。
  2. 試験管を封する際に使うパラフィルムは予め必要な枚数を切っておく。
  3. DMFを4 ml(サンプルの大きさによっては臨機応変に変えること)を試験管に注ぐ。DMFは気化しやすいので,オートビュレットを使用すると便利。
  4. 各試験管にleaf disc(もしくは葉)を入れ,素早くパラフィルムで封をする。この際、leaf disc(もしくは葉)が液の中にきちんと入ったかどうか確認する。
  5. DMFを入れて封をした試験管は試験管立てごとアルミホイルでしっかりと覆い光が当たらない様にして冷蔵庫に入れる(クロロフィルの分解を防ぐため)。
  6. 1-3日静置するとサンプル中のクロロフィル・カロテノイドがDMFに抽出されるため定量を行う。

※抽出にかかる時間はサンプルによって異なる。

3. 吸光度の測定

測定波長

DMFに抽出されたクロロフィル,カロテノイドの吸収がある波長は下記の通り。

  • クロロフィルa: 663.8 nm
  • クロロフィルb: 646.8 nm
  • カロテノイド: 480 nm

これら3つの波長と"ゼロ"(クロロフィル・カロテノイドの吸収のない波長)として750 nmの吸光度を分光光度計を用いて測定する。

測定の際,可能であれば分光光度計もドラフトチャンバー内に置いて測定を行うことが望ましい。

分光光度計による測定

基本的な操作は分光光度計の扱い方参照のこと。

  • 分光光度計は,あらかじめドラフトチャンバーの中に設置して電源を入れておく。
  • 測定値を記録する用紙を準備して手元に置いておく。
  • 上述の4波長の吸光度を測定する。

4. カロテノイド・クロロフィル量の計算

一般に下記の式により計算される。


Porra et al. (1989) 一般によく引用される式。

Chl_a (nmol/ml) = 13.43 * A663.8 - 3.47*A646.8

Chl_b (nmol/ml) = 22.90 * A646.8 - 5.38 * A663.8

Chl_a+b (nmol/ml) = 19.43 * A646.8 + 8.05 * A663.8


Wellburn (1994) クロロフィルについては上記をμg/mlにしたもの。

Chl_a (μg/ml) = 12 * A663.8 - 3.11 * A646.8

Chl_b (μg/ml) = 20.78 * A646.8 - 4.88 * A663.8

Chl_a+b (μg/ml) = 17.67 * A646.8 + 7.12 * A663.8

Car_total (μg/ml) = (1000 * A480.0 - 1.12 * Chl_a - 34.07 * Chl_b) / 245

(Car_total:カロテノイド群全体の量)


A663.8A646.8A480.0はそれぞれ663.8 nm,646.8 nm,480.0 nmで測定された吸光度から750 nmで測定された吸光度を引いた値を示す。

  1. 上の式に3で測定した吸光度を代入して単位容積あたりのChl_a, b, a+bを計算で求める。
  2. 単位容積あたりのChl_a, b, a+bを葉面積あたりの量(分子量または重さ)に変換する。

(例) Chl_a (μg/cm-2) = Chl_a (μg/ml) * [溶媒の量 (ml)] / [葉面積(cm-2)]

5. 後片付け

「遠足は,お家に帰るまでが遠足です。実験は,後片付けまでが実験です」

抽出に用いたDMFおよびその2次洗浄液は下水などに流すことが禁じられており,予め用意した廃液用のポリタンクに保管し,各研究機関の規定に従って処理する。

抽出に用いた試験管は水道水で2回以上ゆすぎ(ゆすいだ後の水も廃液タンクに保管),その後,洗剤を使って洗浄,5回以上水道水ですすいだ後,蒸留水ですすぐ(これらの水は下水に流してよい)。

参考文献

Porra et al. (1989) Biochemica et Biophysica Acta 975: 384-394

Wellburn (1994) J. Plant Physiol. 144: 307-313